共感覚のことを考えるとドッペルゲンガーについて認めざるを得ない俺がいる
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ぽこたバンドLIVE
〜見てくれ今季の集大成(秋)〜 in 代官山LOOP。
2017-11-19
セトリ
01.Reboot/エガマイヤー
02.君に捧ぐファンタジア/鏡音リン
03.mistressdoll/エガマイヤー
MC
04.天樂/鏡音リン
05.ロストワンの号哭/鏡音リン
06.アイシテ
MC
07.吉原ラメント/重音テト
08.君の体温/初音ミク
09.恋愛裁判/初音ミク
MC
10.東京テディベア/鏡音リン
MC
11.リスキーゲーム/初音ミク
12.よっこらせっくす/初音ミク
MC
13.夢花火 おっきーさん伴奏
MC
14.P.S.I LOVE U/GACKT
15.これからもずっと…
MC
16.セカンドステージ
17.セレンディピティ
ENCORE
18.拝啓ドッペルゲンガー/GUMI
MC
19.恋愛勇者/GUMI
20.See You Again
集合写真
21.Hello,Worker/巡音ルカ
好きな曲ばかりだった。
そして、また「夢花火」が
聴けた事嬉しかったぁ。
今年のライブもあと2回
楽しみ。
暴走するドッペルゲンガー
20.
…イヌガミはタタリガミになろうとしてる?
そう言われても、「なんかヤバそうだ」ということしか、分からない。
「どっちにしろ、まーがヤバいんだな?」
「たぶん……取り憑こうとしてるか、もしくは、彼の血肉を取り込んで、自らの肉体を得ようとしてる」
「え?」
今、なんて言った?
血肉を取り込む?
もしかして、食べる…のか?
「ちょっと空気悪いね。窓開けてくれないかな」
問いかけようとしたら、急に勇が運転席に声をかけた。
まーのマネージャーは、「え。はい」と返事をして、後部座席の窓を少しだけ開ける。
風が通るよう、七側の窓も少しだけ開ける。
車内に風が抜けると、勇はこちらを向き、表情の読めない顔で言葉を続けた。
「…狗神は『呪いという現象そのもの』なんだ。だから、『取り憑く人間』がいないと成立しない。つまり、通常は宿主がいなくなれば存在も消える。
でも、この狗神は少し変種で、仲間を食って、その狗神の代わりに取り憑き、次々と宿主を替えながら動き回ってる」
言いながら、なぜか勇はシャツの胸ポケットから、細長い白い紙切れを取り出して、ヒラヒラと振った。そのまま、手の中に握り込んでしまう。
一瞬、何をしてるのか気になったが、話の方に集中した。
「仲間を食うのは蠱毒の真似事で、自分の力を増すためかもしれないけど、…何だろう。
血族の数だけ生まれる他の狗神と違って、
異質……、
自分の意志があるように感じるんだ。
根源である呪詛の犠牲になった犬……の怒りが表出しているようにも見える。
そしていま、血族とは関係ない人間を巻き込もうとしてる。
自らの存在とは『違うもの』に成ろうとしてるのかもしれない」
「……それがタタリガミになる?人に憑いて漂ってたものが、実体化するってことか?」
何だか、イメージが湧かない。
言葉からは、凶暴な犬がデカイ狼に変化するような感じがした。
でも、実際のイヌガミは、顔がイタチもどきで、体は白く、ヘビみたいに胴が長いって言うから、それがぐるぐる取り巻いて、デカくなってる感じだろうか。
それが、まーに取り憑く?
まーの細い体に、化け物がぐるぐる絡み付き、身動きが取れないよう縛り上げて、今にも喰おうとしている姿が浮かんだ。
寒くは無いのに、背筋に悪寒が走る。誰も、見ているはずはないのに、つい窓の外に目を遣る。
「言葉にするならね。
たぶん、その生霊の子が最後の狗神つきなんだ。そして、その子の狗神は食ってしまった。もう他の狗神はいない。移る先がない。行き止まりなんだ。
怨念の強さのせいか、狗神が何か強制してるのか…、宿主の子の体は、たぶんボロボロなんだよ。だから、新しい肉体に移ろうとしてる。
もしくは、血縁から離れて、宿主が無くとも『自立できる存在』に変化しようとしてる」
「……なんで、それがまーなんだよ」
呟きながらも、一度、浮かんでしまった絵が消えない。
恐怖映画なら、捕らえられた者は、捕食者に骨の髄までしゃぶられ、いたぶられる。
見たこともないのに、禍々しいイヌガミの姿がチロチロと伸びる舌が、勝手に浮かんだ。
「対象がなぜ、彼なのかはわからない。
確かに、TV局は構造的に霊が溜まりやすいし、餌に困らない魅力的な場所だとは思う。でも、成り代わった後のリスクが高すぎる。TV局を餌場にするなら、目立たない人間を選ぶ方が合理的だ。
宿主の『会いたい』という感情に左右されたのか、それとも、狗神自身に何か思惑があるのか…」
理由はわからない。
ただ。もしも、もしも。
ずっと昔に届けられた手紙と絵が、全ての始まりだというのなら。
赤と黒で塗りつぶされた絵。
心臓に付けられた印。
イヌガミが移ろうとする、身体能力の高い男の肉体。
一体どれくらい前から、まーは目をつけられてたんだろう。
つけ回すまでもなく、テレビ越しに生存を確認されて。
「どうすりゃいいんだよ…!」
そんな気色悪い化け物に狙われる筋合いはない。呪いをかけた連中とまーは違う。
悪いことをしてないのに、なぜ、目をつけられないといけない。どうやったら、助けられる。
勇はこちらをじっと見て、ポツリと呟いた。
「とりあえず、櫻井くんを化生の結界から引っ張り出そう」
ハッと顔を上げる。
そうだ。翔くん。
「松潤。忘れてるかもしれないけど、面倒なのは狗神だけじゃないんだ」
「あ……」
そう言えば、もう一体、わけのわからないやつが絡んでるんだった。イヌガミの手助けをしてるらしい、ケショウ。
でも、こいつらが仲間になるのはあり得ない、と勇は言う。おそらく、目的が違うんだ、とも。
その理由を問えば、
「やっと点けた火に、水を注いで消すようなことはしない」と言う。
……分からないじゃないか。
イヌガミが変種で、ケショウも変種なら、手を組むことだってあるかもしれない。
何にだって、イレギュラーはある。「絶対」は存在しない。
そんなやつらに、どうやって対抗するんだ。
「彼がどこにいるかは、目星が付いてる。あとは、どうやって化生にバレないように連れ出すかだ。その話を外でしたかったんだ」
「……そう言えば、場所はわかる、みたいなこと言ってたな」
「確認も取れてる。ただ、相手のテリトリーで言いたくなくてさ」
「確認?」
誰に?、と聞きかけて、隣に座っていた七が言い添えた。
「……師匠、グッズコーナーで地縛霊とお話してましたもんね。
壁に向かって話し出すから、周りに変に思われないよう、相づち打つのが大変でしたよ」
「そこはまあ、ユキちゃんの手腕でね。慣れてるでしょ?
あの子、すごい不審な目でボクのこと見てたんだもん。
これは弁明しないとなぁって思って」
地縛霊??
執着のある場所から離れられない霊…だっけ。確か。
このゆるキャラ男は、普段どんな生活をしてるんだろう、とふと思った。
見えているのは、死んだ人間と生きた人間が混在する世界……。
そう言えば、まーもたまに誰もいない場所をじっと見ることがあったな、と思い出す。
食い入るように壁を見て、声をかけると「何でもない」って、ぱっと目を逸らし、こちらを見る。あの、少しこわばった顔。
……あれはやっぱり、何かが見えていたんだろうか。
とりあえず、勇たちがグッズコーナーにいた理由は分かった。
「いやー。でも、なかなか骨のある子だったよ。
自分は関ジャニファンだから、他のイケメンを見かけても、ついてかないって。
他の霊が、悪霊に誘惑されて、吹きだまりに流れて行っても、付いていかなかったって言ってた」
「悪霊が誘惑…?」
「ん?ああ。そうだよ。普通、霊っていうのはさみしがりなんだ。
だから、人の前に現れる。人を巻き込もうとする。
堕ちたのが自分一人だと思いたくなくて、他の霊を呼び、結合することもある。
基本的に、無念や恨みを残して、この世に残ることが多いから、結果、戻れないほどに思念が膨れ上がって、悪霊になることが多い。他者と結合するごとに、自分の意思は薄れて、最後、恨みの集合体みたいになってしまうこともある」
……それはそれで、少し可哀想な気がした。
「だから、あの頑固な地縛霊の子が成仏するには骨が折れるだろうね。意思も執着も強そうだから。
ただ、同じジャニオタのよしみで、何とか話はしてくれたよ。ボクは嵐しか分からないけど。
数日前に、急に変な膜……結界が張られて、前々から棲みついていた女の悪霊が、ところかまわず、徘徊し始めた。仲間にならないか、と誘われたけど行かなかった。
自分はここから動けないけど、妙な気配は度々感じていて、特に今日は二度ほど感じた。
一つは地下に潜ってしまって、一つは上の階に『連れ去られた』みたいなことを言っていた」
「一つは潜り、一つは連れ去られた?」
「鑑みるに、相葉ちゃんと櫻井くんだろうね。相葉ちゃんは自主的に動いてるみたいだから、やはり地下、幽霊たちのいる方だろう。『連れ去られた』櫻井くんは上の階だ」
「つまり、同じ建物に…いるんだな?正確に言うとどこなんだ?」
「相葉ちゃんは地下二階。気配が濁りすぎてて分からないけど、おおよその見当はつく。櫻井くんは三階の端の部屋だよ」
まーは地下、翔くんは三階の端の部屋……。そこに閉じ込められてるのか。
「……狗神はね、たぶん、何とかなる。問題は化生なんだよ」
「え?」
あれだけ…、脅すだけ脅しといて、わりとナチュラルな口調で勇が言う。
「何とか…、なるのか?」
「相性の問題もあるけど、邪魔が入らなければ、ボクの仕事の範疇だ。……しんどい案件には変わりないけどね。でも、相葉ちゃんが大変なら仕方ない。あ。追加料はもらうけどね?」
「そんなの別に。やっつけられるんだな?」
七が楽しそうに茶々を入れる。
「大丈夫ですよ。松本さん。
師匠は鎮魂に関して『だけ』は、スペシャリストですから。それ以外は、何もできないですけど」
「ボクは一点豪華主義なんだ。何でも出来る方が、嫌味で下品だろう」
「師匠は相変わらず、日本語の使い方を間違えてますね」
七の言葉はスルーして、勇はこちらを向いた。
「狗神は、タイミングさえ間違えなければ、何とかなる。夜までにケリをつけてしまえばいい。
ただ、化生が問題なんだ。
只人の櫻井くんを拘束するぐらいだから、相葉ちゃんを助けようと動けば、必ず邪魔してくると思う。
そして、あの気の感じはよく知ってる。あれはボクより強い。しかも、同じ系統の力だから、戦うにも相性が悪い」
「それ……、同じ系統だと問題あるのか?」
「狗神の力を火に例えるとしたら、ボクは水。化生も水。
火事を水で消すことは出来ても、洪水を水で止めることは出来ない。だから、困ってる」
「…え?じゃあ、結局、負けるんじゃないのか」
「別に力で勝つ気はないよ」
勇がさらっと返した。
「力が足りなければ、頭を使えばいい。これはゲームでも、スポーツでも、力比べでもない。
相葉ちゃんを助けられるかどうかが焦点で、まともに勝負する必要はない。別に倒す必要もない」
「そんなうまく行くのか?」
「このクラスの化生なら、知性がある。
相手に少しでも知性があるなら、言葉は有効な武器になる。
ただ、その武器に力を持たせるには、情報がいるんだ。化生の情報が少しでも欲しいんだよ。
だから、接触したであろう、櫻井くんの情報も重要だ。
朝にしか現れない。結界を張る能力が高い。そして、この気。
化生の正体が何なのか、一応、予測は立ってるけど、確信が欲しい」
「でも……、もし、正体が分かったとして、すべての知恵を絞っても、敵わなかったら?相手は知性があって、強いんだろう?」
勇が言っているのは、あくまで理想論だ。
敢えて、聞くのが怖いことを聞いてみた。
「あとは気力と根性と運に任せるしかないかな。全部ダメなら、逃げるしかない」
「何だよそれ。結局、逃げんのかよ」
「あ。人間の気力をバカにしてるね?人間はね、怖い生き物だよ」
「いや、人間より化け物の方が怖いと思うけど……」
こんな小競り合いをしてる場合じゃないのに、勇は諭すように言葉を続けた。
「…ボクの知り合いにエロ漫画好きの女性がいてね」
「えっ?女性なのに?」
「師匠!急に何の話してるんですか」
急に妙な話をし始めた勇に、自分と七の言葉が被った。
勇はこちらを見て続ける。
「そ。女性。彼女が持ってるのは、男女じゃなくて、男同士らしいけど」
「…………」
「何が言いたいかと言うと、彼女はある日、車にはねられた」
「え…っ」
「ところが、普通ならろくに動けない、病院行きレベルの当たり方だったのに、彼女はその場でムクリと起き上がり、ひいた相手を見向きもせず、脱兎のごとく家に逃げ帰ったんだって」
「なんで……」
「どこからそんな力が?って聞いたら、『私が死んだら、あの本はどうなるんだ!!』と気が気じゃなかったらしい。しかも、後でちゃんと検査したら、奇跡的に腕の骨折だけで済んでたんだ」
「…………」
「師匠……」
七が目を半眼にして、勇を見る。意に介さず、勇は続けた。
「じゃあ、もう一つ。聖痕って知ってる?」
「スティグマータ?」
「そう。略してスティグマ。聖なる傷。聖痕っていうと、一般的には、キリストだね。キリストは一度殺されてから、生き返る。
他人の罪を被って、十字架に掛けられ、両手首と足首を釘で打たれて磔にされる。槍で刺されて死に、その後復活する。
信心深い教徒の中には、キリストが磔にされた時、キリストが負った傷と同じ箇所に、『何もしてないのに』自分にも同じ傷が出来たと言う者がいる。それが聖痕」
「ガセじゃなくて?」
「ガセもあるよ。でも、そうじゃないものもある。もちろん、心霊現象じゃない。人間自身の力だ。
人間の脳は、『思い込み』は、怖いよ。強い思いが体に変化を起こす」
「なんで心霊現象じゃないって言い切れる?」
「傷の場所だよ。最初、キリストは手のひらを釘で打ち付けられたと言われていた。だから、聖痕が表れる人間は、手のひらの出現がほとんどだった。
それから、しばらくして、実は両手首だって話になった。すると、今度は両手首に聖痕が顕れるようになった。
おかしいだろ?
神託が『あ、なんか出る場所間違えた。やり直し』って、傷を修正するのか?
情報によって左右される、人間の思い込みの力だよ。
通常の状態でさえ、思い込みの力で変化を起こせる。人間は怖い生き物だ。追い詰められた時の底力は測り知れない。
……それに、全てを尽くして起きた結果なら、受け入れるしかない」
「それは……、そうだけど…」
何だか、綺麗にまとめられたようで釈然としない。でも、まあ。全力を尽くすしかない。仕方ない。
宗教に疎い自分が、キリストと聞くと何となく、クリスマスを思い浮かべてしまう。
そして、まーの誕生日はイブだ。
この件が無事終わったら、今年はがっつり祝おうと心に決める。
「…ちなみに余談だけど、聖書にはキリストの誕生や復活に関する日時の記述は、どこにもない。
実際には、キリストの誕生は3月から4月じゃないかと言われてる。つまり、12月じゃない。クリスマスに関連性は無い。そして、急に聖ニコラウスとか、ニムロドとか出てくる」
「は?じゃあ、何でそうなったんだ?」
「キリスト教が他の土地に勢力を広めようとした際に、その土地の宗教や催事と融合したせいだという説がある。
キリスト教は一神教だからね。
他の神は許さない。他の神は全て悪魔なんだよ。
でも、全部否定していたら、他の者に受け入れて貰えない。だから、『融通』をきかせる。おかしな話だけどね」
「まあ、人によって本筋が曲がるって変な話だな。じゃあ、それでなくてもいいじゃん、みたいな気になる」
「宗教なんて、誰かの作ったお伽噺だよ。
人間に都合のいい神なんていない。
原典なんか、今はもう無きに等しい。人の口を膾炙するたびに、内容は少しずつ変化していく。都合のいいように。
あるいは、自分に理解できる解釈に形を変えて。長い伝言ゲームみたいにね。
…ただ、それでもそのお話が誰かを救うこともある。だから、存在に意味が無いとは思わない。
大概は、戦争や金儲けに悪用されるのがオチだけどね」
「その話は……、もういいよ。ケショウっていうのは、結局、何なんだ。やっぱり敵なのか?」
「さあね。幽霊を誘導して、相葉ちゃんを危険な目に合わせてるから、味方には見えないね」
何かをはぐらかすような答え方。
「……それに、誘導誘導言ってたけど、具体的にそいつは何をしてるんだ?」
「結界の…パーテーションの話をしただろう?」
「ああ」
「人間だけでなく、あれは幽霊にも有効だ。というか、むしろ、肉体という『外壁』のない幽霊…霊体の方がもろに影響を受ける。
局内の壁のあちこちに、一方向に誘導するための、呪術的な痕跡があった。
行き止まりじゃないのに、行き止まりのように錯覚させて、一つの方向にしか行けないように、仕組んでる。
ドッペルゲンガーの話を聞くに、たぶん、相葉ちゃんの姿を借りて、局内にそういう罠を作っていったんだと思う。
狗神の餌になりそうな幽霊のたまり場を探って、そこにだけ通じるように、通路を整備する。
そして、相葉ちゃんの姿をあちこちの人間に目撃させて、情報をばらまき、彼を求める幽霊を惑わせる。さ迷わせ、くまなく局内の悪霊のたまり場を通過させ、まとわせた後、狗神の餌にしようとした……んじゃないかな。やってることだけ見るとね。
単純に、それだけを見ると、狗神を太らせるのが目的のように感じる。
その間、『最終地点』である『相葉ちゃん』が見つからないように、彼の移動経路や控え室は、一時的に壁で目隠しした。
幽霊が、どんなに彼を探しても、見つからなかったのはそのせいだ。
その代わり、躍起になって探し回った彼女は、相葉ちゃんに関する思考や共鳴するもの、ちかしい気配を感じるものに敏感になって、そこにたどり着いた。それがアンタたちだよ」
まーの姿で悪さをするニセモノ。
「ただ、こ……いや、化生が狗神を存在を許容してるとは、どうしても思えない。だから、目的が見えない。
霊力のない櫻井くんが何かしようとしただけで、妨害をした。
それが、理由があってのことなのか、邪魔するから、ただ退けただけのか、分からないけど。
彼に対してでさえ、そうなら、意志を持って、邪魔しようとするボクらを黙って見過ごすとは思えない。
狗神に関わった時、化生がどう出るかが分からない。
狗神自身は、力がピークになる夜まで待って、動く可能性が高いと思う。
狗神にとっても、一か八かの試みだ。万全を期すだろう。
だから、狗神、化生含めて、夜までに手を打たないとならない。出来ることはやる」
そこでふと思い出したように、勇は尋ねてくる。
「そういえば、他のメンバーは?」
「ニノとリーダーは…撮影中だと思うけど……そろそろ終わった頃かもしれない。ただ…」
ニノは生霊の本体の方に異様に興味を持ってた。空き時間があれば、もしかしたら、そちらに向かうかもしれない。そのことを勇に告げた。
勇は少し考えながら、七をチラリと見て、またこちらを見た。
「……病院…。病院か。ふうん。みんなをバラバラにしたのか。……あのさ、松潤」
急に改まって言うから、居住まいを正した。
「何?」
「護衛をつけるから、やって欲しいことがあるんだけど」
「山橋莉菜です。待ってました」
中学生くらいに見える少女は、すっと背筋を伸ばして、こちらを見た。真っ直ぐな眼差し。だけど、頑なで、気持ちの何かが閉じている気もした。
白い大きな犬は、彼女の横に寄り添っていた。額にコブがあるようには見えない。
大野さんは、確認するように、まじまじと犬を見て……って、何でこの人、パンの袋、抱えたままなんだよ。置いてこいよ。
「二宮さんと大野さん……チナちゃんに会いに来たんですよね?」
何でオレらの名前を知ってるかはともかく。
どうして、誰に会うつもりとか、知ってるんだ?
「きみは……?」
「山橋……」
「名前は聞いた。ヤマバシリナさん。もっと根本的なこと。きみは誰?オレらに何の用?オレは病院に来ただけだよ。どうして、誰かに会うって思ってんの?」
「ニノ。質問多いよ。あと、どっかに移動した方がいい」
大野さんが横でボソッと言って、ああ、と思った。
裏口とは言え、人通りが無いわけじゃない。
莉菜は顔を上げると、こっちへ、と呟いて、裏口の扉を開けた。
何だか一瞬、息苦しいような、嫌な感覚になって、躊躇した。
だけど、ここにいたって何も進まない。思い切って、彼女たちの後に続いた。
「私は、チナちゃんの親戚です」
「親戚?」
案内をするように、少し前を歩く彼女は、一切振り向かず、前を向いて言葉を続けた。
「狗神が悪い。みんな、狗神のせいです」
「は?イヌガミ?犬の神様?……その、横にいる犬?」
「違います」
一言否定しただけで、多くは語らない。
イヌガミ、と聞くと、「犬神家の一族」を思い出してしまう。
あれは確か、殺人事件ものじゃなかったっけ?
ノロワレタ一族がどうとか…。
………。
なんだそれ。
なんでそんなものが、急に出てくるんだよ。
ただ、幽霊が実際に出てきてしまってる以上、妙な事態になってるのには、代わりないのかもしれない。
「その、イヌガミっていうのが、何なの」
言いながら、ふと、隣を歩く大野さんを見ると、目の前を歩く白い犬のフサフサした尻尾を片手で掴もうとしては、難なくかわされていた。
ああ、もう。何やってんだ、この人。
ため息をついて、前を見た。
「狗神は化物です。昔、悪い人が犬を使って、私たちの先祖に呪いをかけて、それがずっと続いてるんです。そこで出来た化物。
狗神自身も私たちを呪ってて、私たちが不幸になるのが嬉しいんです。チナちゃんは今、その狗神にすごく苦しめられてる」
何だかついていくのが、困難な話題だけど。
「……じゃあ、きみも呪われてるの?」
「リナの、私の狗神は……、夕夏さんの狗神が食べたから、もういない。だから、私はそんなに嫌な目に合わずに済んだ。
でも今度は、夕夏さんの狗神が大きくなって、夕夏さんを殺して、チナちゃんのママに憑いて。その狗神を食べて。今は、チナちゃんに取りついちゃって……。
チナちゃんが、狗神つきの最後だから」
それで人が亡くなったとか、本気か冗談か分からない。
いや、本気なんだろうけど、呪いとか、そういうの、あまりに現実離れしすぎてて。
「何それ。そもそも、イヌガミって化物、そんなにたくさんいるの?きみらを呪ってるのに、きみらじゃなくて、仲間の方を食べるの?」
「…仲間を食べると力が増すんです。あいつは、きっと王になりたいんだ」
「王?化物の?人間込みで?」
一瞬、莉菜が振り返った。
その眼差しは冷たい。
「知りません。化物の考えなんて、わかりません。ただ、あいつのせいで、めちゃくちゃになった。めちゃくちゃにされた。許さない」
許せない、じゃなくて、許さない、か。
口許を引き結び、両手は握りしめ、また前を向く莉菜を見ながら、人気の無い廊下を歩く。
静かだな、と思う。
相変わらず、大野さんは、少女の左隣を歩く犬の尻尾を掴もうとしてて、それ以外の気配はない。
入る前から、何かに飲み込まれるような、圧迫感はあったけど、昼の病院ってこんなに静かだったっけ?
もっと、人の空気とか、慌ただしい足音とか、あってしかるべきだけど………。
音が、何もない。
誰ともすれ違わない。
次第に、背筋にぞわぞわしたものが押し寄せる。
それを分かってて、入ってきたんだ。
怯えを見せるな。つけこまれる。
内心、自分を叱咤しながら、彼女の後についていく。
この少女だって、ほんとは生きてるかどうか、分からないじゃないか。
連れていくって、一体どこに連れていく気なんだろう。
怖いよ。相葉さん。
静かに笑う姿を思い返す。
許せないって、思ったけど、だから何ができるって、はっきり、分かってたわけじゃないけど、でも、動かずにはいられなかった。
だけど、やっぱり、ここは怖い。
ふと───、
「ニノ」
大野さんがポン、と軽く背中を叩いた。
「大丈夫だから」
一瞬。なぜか。それだけで気が楽になった。
大丈夫なんて、何の確証も無いのに。
いや、こんな時ですら、得体の知れない犬の尻尾で遊ぼうとする大野さんだからこそ、気が抜けたのかもしれない。
少女がふいに、ピタリと止まった。病室とおぼしき、扉の前。
「……ここがチナちゃんの病室です」
言いながら、カラリ、と静かに引き戸を開ける。
そちらの方はほとんど見ずに、うす暗い病室の奥を見た。
「ニノ!!」
大野さんの制止を聞かず、ドアが開けられるなり、ベッドサイドに早足で近づいて、水色のカーテンを思いきり開けた。
少しでも躊躇したら、怖じ気づく自分を知っていた。
だから、一気にやった。
──誰もいない。
ベッドの周囲には、動物のぬいぐるみや雑多な小物。数冊のTV誌。
だけど、白いベッドには肝心の主がいない。
バッと莉菜を振り返る。
莉菜は静かにドアを閉めると、こちらを見た。
「いるわけ無いじゃないですか。チナちゃんは衰弱しきってるんですよ。一度、ICUに入って、いまは無菌室に移ってます」
「じゃあ、そこに連れてってよ」
「少し、話を聞いて下さい」
「こっちだって仲間の命がかかってるんだ!そんな悠長なこと言ってる場合じゃ……!!」
「聞こう、ニノ」
大野さんに止められて、一瞬、ぐっとこらえる。
大野さんは、ベッド際のオレと入り口前の少女からの中間地点、ちょうど病室の壁際に置かれたTVの前に立っていた。
「チナちゃんの病気は、最初は小さな風邪と肺炎から始まって……、喘息に肺気胸……、今は、8つめの病気にかかってます。
一つ治るたびに、別の病気にかかる。そして、どんどん重くなってる」
「8つめ……」
「……いまは、脳に原因不明の腫瘍が出来てるって、聞きました。お医者さんたちは驚いてます。チナちゃんは……、もうすぐ8歳になるけど、この小さな体で、これだけの病気に耐えてこられたことが、それ自体が、奇跡だって。それくらい、病気の連続」
あいつのせいで、と莉菜は小さく呟く。
「夕夏さんの時は、精神の方をいじってた。何かを確認するみたいに。人間の限界がどこにあるのかを、確認するみたいに」
精神をいじる?
よく分からないけど、幻覚を見せるとか、そういう類いだろうか。
ただ、この子はその「ユウカさん」と言う人が好きなんだろうな、ということは分かった。
分かったところで、今の状況には、何の関係もないことだけど。
「チナちゃんの腫瘍は取っても取っても、無くならない。どんどん視神経を圧迫してるから、このままじゃ、もう目が見えなくなるって言われました。
こんなことは……、こんなことは、もう終わりにしなくちゃならないんです」
「それは、相葉さんを犠牲にして?」
「………」
「だって、そうでしょ。この状況はそうでしょ。何をやるのかは、知らないけど。
聞いてると、その呪い?から逃れるために、見ず知らずの人間を人身御供にしてるようにしか聞こえない。
そっちの理屈は勝手だけど、相葉さんが、犠牲にならなきゃいけない理由にはならない。
あの人はバカだけど、愚かじゃない。
誰かに恨まれたり、犠牲にされる筋合いは無い。必要としてる人間がたくさんいる。
それを勝手に使い捨てる、大層な理由って何かあるの?
それって、呪いかけた奴らと同じレベルじゃないの?
終わらせるとか何とか、格好つけてるけどさ。
きみらにとっては、それが正義かもしれないけど、オレにとっては、ただの悪事だよ。
反論あるなら、聞くからどうぞ」
子供相手に、とは思わなかった。人の命がかかってる。
子供だからって、容赦は出来ない。
知らないといけないことは、ちゃんと知らないと。
「愚かな人間は、生きる価値が無いんですか」
「そんなことは言ってない」
「人に必要とされなければ、生きる価値が無いんですか」
「そんなことは言ってない」
「なら、犠牲にする理由があれば、犠牲にしてもいいんですか?」
疑問というより、確認するような口調で莉菜は返してきた。
一瞬、妙な違和感を感じた。
まるで、相葉さんが悪事に染まれば、闇に堕ちれば、罰してもいいのか、と確認しているように聞こえた。
「いいわけないだろ」
大野さんがぼそっと言い返した。
「いいわけないし、したくもないだろ?」
莉菜が一瞬、大野さんの方を見て、目を逸らす。
「だって、あんた、相葉ちゃんが好きだよね?」
え?
「嫌なら、止めれば?
いくら理屈をつけても、心は納得しないよ。それが後悔ってやつじゃない?
後悔は──、何だっけ。役に立たないんだよ。そうそう。役に立たない。無駄なんだよ」
「あなたには、関係ない」
「関係なくないよ。仲間だもん。
どっちかっていうと、あんたたちの方が、よっぽど関係ない。
こんなこと止めちゃえば?」
どこかあっけらかんとして、大野さんが言う。
恐れを知らぬ、という言葉があるけど、大野さんは恐怖心が少し麻痺してるのかもしれない。
「私たちの、邪魔をしないで。
大人しくここに居て下さい。
ドアが開く頃には、全てが終わっています」
一瞬、目の前に白い霧がかかる。いや、違う。莉菜と犬の周りにだけに、何かの膜が張られていく。
逃げる。
なぜかそう思った。ハッとしたけれど、もう遅い。
「一つ、言っとくけど!
相葉さんに呪いをなすりつけて、逃げおおせた気になってるなら、今度はオレが!全く同じ呪いをきみにかけるよ!」
霧に消されるように、白い犬と少女はその場から、跡形もなく消えた。
「うわー……消えた。やっぱり、オバケだったのかな?あれ」
大野さんが少女のいた床をポンポンと叩く。
オレは無言で、扉をガタガタ揺らす。びくともしない。
窓も同じだった。
閉じ込められた……。
「まあ。救助を待とう」
「救助なんかくるわけないだろ!」
呑気に言う大野さんにカッとなった。ここは空き室の病室だ。誰も来るわけがない。
「一応さ、目印置いてきた」
「は?目印?」
そう言えば、ふと、大野さんの持ってる紙袋がしぼんでる気がした。
「パン……、減ってる?」
「うん。尻尾と格闘するふりして、落としてきた。ほら。何か、廊下にパン落ちてたら、違和感あるし。パン食ってる最中に倒れた病人がいるんじゃねーかって、気にして貰えたらさ」
「……あれ、遊んでるわけじゃなかったんだ。すごい楽しそうだったけど」
「うん」
ただ、ここは重病人の病棟だ。
普通、重病人はパンを食べながら、廊下を歩かない。
落ちてるパンが病人の危機と結び付くかどうか。
それにここには最初から人気が無かった。普通の人が入って来れる場所なのかすら、定かじゃない。
でも、そういうことを本能的にやってしまうのはすごいと思った。パンを廊下にボトボト落としてくるって……。
ただ何か…、暗い廊下に、美味しそうなパンがボトボト落ちてるって、シュールな光景だ。
「雑なヘンゼルだな」
「エンゼル?」
「いや…、もう何でもいいよ」
部屋を見回す。
窓の外は、隣の病棟の壁。
窓自体が開かないから、外に助けを求めようもない。
見える範囲では、人の姿は無かった。
「ふーん。ここの部屋の子も相葉ちゃんのファンなんだな」
大野さんはベッドに腰かけて、パラパラとTV誌をめくる。
ちらっとそちらを見ると、無言で表紙をこちらに見せた。
相葉さんが表紙だ。
残りの数冊も全て。
……もうすぐ、目が見えなくなる。
だから、相葉さんを一目見に、会いに来たのか?
「じゃあもっと、まともに会いに来ればいいのに」
ボソリと呟いたら、大野さんがこちらを見た。
「何でもない」
それが出来るくらいなら、そもそもこんなことになってないのかもしれない。
好きな相手に、呪いなんかかけたくないだろうし。
「ねぇ、大野さん」
「ん?」
「何で、さっきの子が相葉さんのファンだって分かったの?」
「んー…。何となく」
「何となく?」
「あとは…、あれ?ニノ、見てない?」
「何を」
「女の子の趣味ってよく分からないんだけどさ」
「うん」
「何か真面目そうな外見なのに、マニキュアしてた」
「マニキュア?ネイル?」
「知らない。ドア開く時に見えた。左手の薬指だけ、だけど。緑色の」
「緑……」
「あんまり、女の子って緑色のネイルしてるイメージなくてさ。珍しいなって。何か、でもそれ、おまじないみたいに見えた」
緑は相葉さんに割り振られたカラーだ。
「何かさ、あの子たち、オレらに危害を加える感じがしなかったんだよね。だって、こんな変なこと出来るなら、もっと強引な方法も取れただろ?」
「それは……そうだけど…」
「ドアが開く頃には、って言ってたし、閉じ込める気もないんだよ。こんな『敵』っている?」
「そんなこと言われたって…」
かと言って、味方とも言えない。あんな正常ではなさそうな霊が、何もしないとも思えない。
「何かを……」
「うん?」
「何かをね、待ってる気がするんだ。ニノ」
「待ってる?」
「よく分からないけど」
「……でも、オレは待てないよ。やっぱり納得できないし、見過ごせない」
この病棟に生霊の本体がいるのは分かった。
何とかして会いたいが、ここから出る方法がない。
「スマホも……、あ。やっぱり圏外か」
スマホを取り出しても、通話には繋がらない。メールもラインも送れない。
ふと。
急に、バックライトが光った。
メール着信。
「え?何だコレ……」
スマホには、よく分からない文章が表示されていた。
『パン、美味い』
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涼しくなってきたし。
そろそろ、止まってた話を動かそうかと。
足早に書きましたが、一気に2パート。長くて申し訳ない。
続く。
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